(様式別)アメリカン・バロック

December 05, 2013

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『ステップフォード・ワイフ』(原題:The Stepford Wives、2004年公開、監督:フランク・オズ、アメリカ映画)
Wikipedia引用
『1975年に製作されたハリウッド映画『ステップフォードの妻たち』のリメイク。原作はアイラ・レヴィン。
 ジョアンナはニューヨークでやり手のテレビ・プロデューサーとして働いていたが、過激な番組が元で辞任させられてしまう。すっかり意気消沈した彼女を気遣う夫のウォルターは、家族のためにコネティカット州のステップフォードに移り住むことを提案。ステップフォードは治安もよく、豊かで大変美しい町だったが、そこに住む女性たち(妻たち)は揃いも揃ってグラマーで貞淑で、あまりに完璧な妻であることにジョアンナは気がつく。』
 って感じのストーリー。
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 舞台はコネチカット州のゲーテッド・コミュニティ(入り口に監守付きの柵で囲われた住宅地)という設定らしい。 
gete 色々と調べてはみたものの、ローケション情報に乏しく所在地の特定出来ず・・・謝)
 おそらくは、コネチカットである事は間違いないようだが、いろんな住宅地にある家を映像的にひとつの住宅地に見せたのではないかと推測。(勝手に)
 そのすばらしき家々(ジョージアン様式ネオクラシカル風アメリカン・バロック様式グリーク・リバイバル様式といった様式のオンパレード)をご覧くだされ!
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 ニコール・キッドマン扮するジョアンナが住むことになった石造りの洋館は絵画のような田園風景に溶け込んだ美しい外観となっている。

 一説によればこの家の床面積は延べ8万平方フィート(約7400㎡=約2,500坪)とあったが、それはないでしょ?たぶん敷地(土地)面積のことだろな?
 いずれにせよ、とんでもないおっきな邸宅は、石造のアメリカン・バロック様式を踏襲している。
 
 ホワイトのトリムやウィンドウとブルーグレーにペイントされた鎧戸が自然石風の外壁にとても心地よくマッチしていて、中心部はシンメトリーな貴族趣向をのぞかせている。
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 とてつもなく長いアプローチと家の前にはロータリーがあって、いかにもイギリスの貴族という印象を与える。
 ここで注目したのは、敷地内の車道のすべては舗装していないことだ。
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 アメリカには本当にすんごいお金持ちがいて、それはそれは我々日本人の想像を絶する桁はずれでスーパーな領域なんだけど、そのクラスが持つ家のほとんどが一般公道から家の様子を見ることができないんだな。
 それがいわゆるひとつの「ステイタス」。
 そしてその敷地内車道には土もしくは砂利が敷かれているってことが、これまた「ステイタス」。

 これはね、かの有名な天才建築家F.L.ライトによる建築の四原則の其の一「土地を大切にせよ!」と繋がっていると思うんだけど、住宅を建てる為の土地は自然の産物であり、それが持つ形状や起伏、素材などを蔑ろにしてはならんっ!!ということだね。
 日本のように何でもかんでもコンクリート(舗装、土留め)を使って自然環境を壊しちゃいかんよってことなんだ。 ふんふん。


 ジョアンナ邸のインテリアは80〜90年代に流行ってたアメリカンスタンダードなテイスト。
 ウッドパネルのキッチン、大きなサークルヘッドウィンドウ。
 ポリッシュド・ブラス(磨き真鍮)の金物類やパステルカラーのドライウォール。
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 エントランスはマーブルのボーダー貼り分け。ウェルカムテーブルのパープルの花や玄関ドア両サイドのお団子トピアリーもステキだね。
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 「ステップフォードの外観はニューマネーのように定義され、すべてが新しいく完璧な住まいを演出」と制作者が語るように、家の全ては電子制御システムで行う”スマートハウス”なのである。

 んん?やはり全てシステム化されたモノを皮肉る映画なのか??と思ったら、まさにその通り!
 実はワイフ達は改造人間なのである。
 定期的にパーティーなどの催しがあって、コントロールされたワイフ達がある意味不気味に立ち振舞う。 

 ダッチコロニアル様式のレディースクラブ裏庭(リア・ファサード)に日本で言う”藤棚”でのお茶会やクリスマスに夫を喜ばせる為の合同練習??をしている。まあそんなことはどうでもイイんだけど、ここのパーゴラやラティスワーク、そして美しいガーデンは庭造りの参考なる。


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 フェデラル様式のステップフォードオフィス(管理事務所)
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 ワイフ達を自由に操るハズバンド達が集うステップフォードメンズ協会ステップフォードメンズクラブ。
 むふふ・・なんか笑える。
 外観はシャトーエスク様式でヨーロッパ本流のクイーン・アン様式風という見方もできるかな・・・・
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 車寄せは狭い。たぶん馬寄せだったんじゃないかな?ということはそれほどまでに実際の古い洋館ということを読み取る事ができるカットだ。 
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 というわけで、最後にはクラブの創始者の首が取れて終わり。ってどんな終わり方じゃっ!!
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 まぁ、結局のところ住民の動線や交際まで仕組まれたレジデンシャル(住宅地)が「コミュニティが行き過ぎると、こういう風に映るよっ!みんな人間性を失わないように気を付けようね。」っていうメッセージだろね。
 よくさ、日本の『団地』問題があるじゃん?あれと似たような要素で、ロボットのように上辺っツラだけでベタベタ付合う事が良いことではなく、大金を投じた大切な住宅と住宅地を維持して資産価値を維持上昇をさせるという目的を達成するためには、お互いのアイデンティティや家族構成などを何となく意識し合って、それをお互いに理解尊重してセキュリティを強化しなければならないっていうことも含まれてるってわけだ。

『ステップフォード・ワイフ』完結っ!
 


(23:35)

August 19, 2013

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『幸せがおカネで買えるワケ』(原題:The Joneses、2009年公開、監督:デリック・ボルテ、アメリカ映画)

 その1で解説した通り、外観は石造りのチューダーやヴィクトリアンも折衷しているアメリカン・バロック様式。まるでゴルフコースの中にでも建っているかのような、緑豊かな美しい住宅環境だ。
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 おそらく計算し尽くされた外部照明計画で夜観までもが美しい。
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 ダイニングを載っけるの忘れてた(汗)スチールの脚にガラストップを乗せただけの、かなりモダンなダイニングテーブル。壁にはシルバー額にモノクロ家族写真と、どんだけナルシストなんだっ?って感じ。
 あれ?このチェアはライリーん家と同じだっ!使い回しだろか? 
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 ライリーん家のダイニングチェアliry-ent

 ライリー邸もジョーンズ家よりコンパクトながらクラシックで格調高い造り。
 このカウンタートップの石種は何だろ?
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 ライリーん家の外観は石造チューダー風バロック折衷様式。lily-ex



ジョーンズ邸メインのリビング
 マントルピースをセンターに両脇をビルトインの棚が固めるという”お決まり”のスタイル。これってアメリカでは絶対なんだな。
liv-mant この場所は『コージーコーナー』と呼ばれ、欧米では古くからご婦人方のお茶する場所として造られてきたが、産業革命時代には富を得た多くの中産階級の手によって彩り豊かなヴィクトリアン・タイルなどが多用され、競い合うように飾り立てたんだって。貴婦人達の憩いの場として活躍したスタイルが今でも伝承され続けてるってことだね。
 日本にも『茶室』ってあったけど、今は無いもんね。日本の住宅は何を造りたいんだか??伝承されるものも無ければ、こうした欧米のすばらしき文化を学ぶこともしない。何なんだろねぇ〜?? 

 この家にはいくつもマントルピースがあるけど、コレはね、豊かさを象徴するものなんだよー!その昔の英国文化なんだけど、豊かな家ほど暖房器具である暖炉の数が多いと云われ、それをチムニートップ(煙突)の数で判断したそうな。豊かさを誇示するために、今度は煙突に彫刻をしたり華美に飾ったりするようになったとさ。
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マスターベッドルーム
 グレー系のドライウォールに重量感のある家具や清潔感豊かな調度品がさわやかな空間を演出。mb3mb1

 
 アメリカではベッドメイクに大きさの異なるピローをいくつも重ねている。ウチも真似してやっているけど、寝る時にいちいち退ける一見面倒な作業が、寝る準備をするという一連の流れで、ある意味ありです!
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 長男(役)の部屋は完全にプレイルームと化している。ソファーが動くTVゲーム、ビリヤード、バーカウンターまで付いちゃってる!私はこの部屋が欲しい!boys1


 長女(役)の部屋はすでに落ち着いた大学生のシンプルな雰囲気。dau1


 長男の彼女の家。レンガ造のバロック様式にファームハウスやヴィクトリアンの要素をミックスしたノスタルジックな外観。
  この住宅地の建物はどうやらアメリカン・バロック様式がデザインコードに入っているようだね。

  アメリカの住宅地には、好き勝手なデザインの住宅を建てることは出来ない。住宅地毎または区画毎でアーキテクチャル・ガイドライン【建築設計デザイン指針】で定められている様式に添い、さらに書店でも売っている「ハウスプラン集」の中から選択するのが一般的となっており、それらが(まだまだ色々あるが)設計コストを削減し、街並みの景観を守り、資産価値を上昇させる大きな要因となっている。
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The Joneses(完結!)

次回は何にしようかな…



(22:48)

August 09, 2013

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『幸せがおカネで買えるワケ』(原題:The Joneses、2009年公開、監督:デリック・ボルテ、アメリカ映画)

 ジョーンズっていう題名について下記Wikipedia引用
『主人公の一家が隣人のジョーンズ家と張り合うコミックが20世紀前半にアメリカの新聞で人気となったのが由来とされ、タイトルの"Keeping Up With The Joneses(ジョーンズ家と張り合う)"が「何でも欲しがる、見栄を張る」などを意味する言葉として使われるようになった。アメリカが大衆消費の時代を迎えた1960年代に育った世代(1954~1965年生まれ)は物欲偏重傾向が強いとされ、ジョーンズ世代と呼ばれている。』
 
   っていうことは、原題であるThe Jonesesといえば、アメリカ人の間では何となく事の内容が判っちゃうってことなんだろね。

 この映画には多くのステキな家が登場し、「すんばらしい!」の一言。にもかかわらず、あまり話題にもならなかった残念な作品。 

 The “perfect” American familyを装う一家が暮らすための家だけあって、そりゃもうゴージャスでハイセンスなインテリア、粋なライフスタイルまで楽しめちゃいます。

 まずは住宅地のゲート・・・・凄っ! 
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より大きな地図で The Joneses house を表示

 お城が連なるかのような美しい町並み
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 街路時の熟成度から見て、比較的新しい高級住宅地に立つ豪邸外観は、その家族のアイデンティティを象徴するデザインが選ばれている。切り妻屋根をファサードに多く使って、ある意味攻撃的とも言える力強さと自己主張を強烈に誇張させているように感じる。

 アトランタからルート19を北上したアルファレッタという町のゴルフコース付き郊外型住宅地「THE MANOR」Manor Bridge Dr Alpharetta, Georgia

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に位置するその家の左右非対称(アン・シンメトリー)な構えは、知恵と身体で富を得たブルジョアジーの強さを自信たっぷりに誇示し、
石材とレンガを使い分けた組積造と渋いカラーリングで威厳のある風格を醸し出している。
 引っ越して来た直後に、家の前で家族写真を撮影するが、家族も家も何となくおんなじ感じに見えるデザイン=家族の思想そのものであり、いかにも「この家族にしてこの家」という印象を強く受ける事だろう。
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 こういった事が、アメリカの住宅取得者達の外観デザイン選定要素を左右しているということを知ると、面白いと思わない?
 
 事は住宅デザインとは違うけど、よく「犬は飼い主に似る」って言うじゃん?実はそうじゃなくって「無意識で自分に似ている犬を選んでいる!」プふふふ・・・だって犬だよ?犬が人の顔に似てくるわけないじゃんかー!

 んで、本題の住宅の様式だけど・・・・んン~~難しい!(またかよ)
 ヴィクトリアンの要素もあるしぃ、組積造のチューダーっぽく見えるしぃ~・・・・
 もちろんそれらも折衷されているけどぉ・・・・
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 判んないから、日頃お世話になっている私の師匠、住宅生産性研究会の戸谷英世先生に私の見解を添えて意見を伺ってみたら、「一見、ヴィクトリアンとチューダーの折衷?とも思ったが、屋根勾配などがそれらしくない。おそらくアメリカン・バロック様式ではないでしょうか。」とのことだった。

 いやぁ~まだまだ勉強不足だなぁと自己嫌悪に陥りつつも、そもそもバロック様式とはフランスで16世紀から18世紀初頭にかけて栄えた古典的様式で、代表的なものにベルサイユ宮殿やサンピエトロ大聖堂などがある。日本におけるバロック様式の建築は北海道庁の総赤レンガ造の厳格なデザインで知られる。

 でもこの家はそれら代表的な建築物とは違うじゃん?と感じるであろうが、様式というのは思想そのもので、
 そのバロックの思想を受け継ぎ、アメリカ人たちが時代の要求に応えて創ったのが「アメリカン・バロック様式」なんだな。何となく解ってもらえた??(強引に様式解説おしまい!) 


 インテリアは金物類、オブジェなど全般的にシルバーとクリスタル多用した最新アメリカンインテリアデザインで、クラシックとモダンの融合になっている。 
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 これもよく見る光景
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 引っ越してくると、隣人が木製カゴに何やらプレゼントを入れて挨拶に来る。日本とは真逆だね。
 そして家族構成を紹介し、我が家の中身を見せることによってアイデンティティを知ってもらうんだ。
 これが住宅地におけるセキュリティに繋がる!
 犯罪社会と言われたアメリカが過去の歴史に学び、近隣が協力して住宅地全体を守っていく。なんと素晴らしいことだろう!日本にもその昔、「向こう三軒両隣」という優れた環境保守構造があったのにねー・・・・
 完全にどっか置き忘れちゃったねー・・・・寂

 階段はナチュラルに仕上げたポスト・トゥーポストのハンドレイルに太いスクエアのニューウェルポストアイアンバラスターが並ぶ。高さのある幅木にも注目。 
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 アクリルバックのバースツールはイタリアンモダンデザイン。
コレ探すの大変だった・・・・
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 右隅に映ってるサークルのミラー
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キッチンの内側はこんな感じ。
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 劇中でトイレは「TOTO」と出てくるが、このモデルは日本で見た事ない。
  どちらかというとINAX(今はLIXIL)の最高級トイレ、レジオのデザインに似てるね。でも国際的な知名度はTOTOなのかも??

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 キッチンバックの自然石風外用っぽいタイルの貼り方は、至る所にダイヤモンド(四半貼り)とメタル系ポイントを入れ、額縁で囲んだヴィクトリアン・デザインは最近アメリカでポピュラー!
 隣人ライリーん家や最後に引っ越した家も同じテイスト。
kit1kit2kit5ライリー家のキッチンバックは、オールド・トラバーチン風タイルに太めのモールディング・タイルで格調を高めている。イイねぇ〜
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最後に出て来る家のキッチンとスツール
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ココ大事↓
  日本の家からどんどん消えてしまっているそんな光景は、工学と経済学だけで造られた、まるで倉庫や物置のような住まいしか手に入れる事ができない日本人にとって「今もっとも必要」とされているのは人文科学で考えた住まいの形ではないだろうか。 

とってもイイ家なんで、絞っても絞っても画像が減らない!

よって次につづく・・・・・早いうちに・・・・・・・・できるだけ・・・・・
 




 


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