May 2014

May 03, 2014

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 『グラン・トリノ』(原題:Gran Torino、2008年公開、監督:クリント・イーストウッド、アメリカ映画)

 この住宅はステキというよりアメリカの住宅文化にとってふたつの重要な局面を持つので紹介しちゃおう。これから家を建てる人は必見!
 クリント・イーストウッドが演じる軍人あがりでうるさい頑固ジジイのウォルトが今や日本人が忘れつつある「家を大切にする」「近隣景観を守る」を皮肉いっぱいに教えてくれるよ。
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 様式的にはクラフツマン様式とパレイシアル・パレス様式の折衷でのフォースクエア住宅という1908年からシアーズ(どこのモールに行っても付属する大型でパート)による通信販売で全米にひろがったものと言ってもいいかもね。
 一筋縄ではいかない内容だから、連休の時間ある時にでも読んでね〜

 まずは様式。
 クラフツマン様式は、イギリスのウィリアム・モリスが19世紀の産業革命時に重工増大からの人間性回復や芸術と手工芸の合体を目指し自然との共生を図るという「アーツアンドクラフツ運動」と女性の家事労働からの解放と権利拡張の思想であるフェミニズム運動に連動するかたちで生まれる事となる。 

 1901年カリフォルニアの建築家ギュスターブ・スティックレイによって雑誌『クラフツマン』の中で紹介された”バンガロウ”が人気となった住宅デザインで、イギリスの殖民地であったインド・ベンガル地方の住宅デザインを元に、「家族全員が一つの大きな屋根の下で平等に暮らす」というキリスト教の考える家族像=家族一宇を具現化する建築デザインとして一大人気となる。
 一般的にはクラフツマンスタイル(様式)のバンガロウタイプ(型式)と呼ばれ、アメリカでは1900年から1930年にかけて、カリフォルニアで爆発的に建設された。

 クラフツマンスタイル(様式)バンガロウタイプ(型式)の特徴は 家全体にかぶるゆるい勾配の屋根=大屋根の平屋の小屋裏部屋に大きなルーフドーマーをつけた1.5階建で、高床でフレンチコロニアルに通じるベランダには、最大の特徴である「裾広がりの柱」が石またはレンガなどの土台の上に乗せられる。 
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ベンチが置かれたポーチで毎日のようにビール片手にジッポでタバコに火を着け、愛車グラン・トリノを眺めては愛犬デイジーに語りかける。
そして近隣の変化を観察する「ウォッチャー」の役割を果たしている。 
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と同時に近隣の住宅管理のだらしなさに嘆く。

 
 コンパクトでありながら合理性と経済性を合わせ持つ快適な住まいはアメリカの「ベーシックハウス」として評価されるようになり、現在でも西海岸を中心に人気が高い。
 バンガロータイプの住宅は、ヴィクトリアンの装飾華美でかしこまり過剰的なものよりも、アメリカ人の独自な価値観を示し、ヴィクトリアン建築から脱出出来ずにいた建築家にも大きな影響を与え、多くのアメリカ人に評価された後、カナダ、オーストラリアへもひろがっていった。

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 もうひとつの局面として、この時期バンガロー住宅とともにアメリカ全土で建築された住居形態がフォースクエアである。
 コンパクトながら部屋数の多い住宅要求に対し、表面積が少なくて容量の大きい正立方体で対応したこのタイプの住宅は「アメリカン・フォースクエア」と呼ばれ、バンガローと同じように1890年ごろからはやり始め、クラフツマンやプレーリースタイルでデザインされたものが多かった。

 特に家族が多い地方からの人気が高く、キット住宅としても全国で建築されたが、さらにアメリカにおける住宅供給のスタイルにも通信販売というものが登場して、庶民にも近代的な住宅を提供したイリノイ州シカゴのシアーズ・ローバック社(Sears)が1908年から1940年の間に組立式住宅「シアーズ・モダン・ホーム」を販売。 
sears あらかじめプレカットされた材木やその他全ての部材はキット化され、汽車で輸送できるとところならどこへでも運ばれた多くの住宅もまた、フォースクエア住宅だった。 
100年前のキット住宅とは思えない豪華なキッチン
kitほとんどの修繕はマイセルフ! 

kit2bath 主人公ウォルトは朝鮮戦争から帰還し、1953年ごろアメリカンドリームである住宅を、自身が勤めるフォードの生産工場が近いデトロイトに家を構えたと思われ、当時の人気だったクラフツマン様式フォースクエアハウスをセレクトしたんだねー。

 今日のアメリカの既存(中古)住宅流通において、シアーズの住宅であることが分かるとプレミアムがつくそうだ!その既存(中古)住宅がほぼカタログどおりに建築され、原形がよく維持されていることに完成度の高さを感じるよね。
 アメリカには100年前後の時を経ても資産価値が下がらないというすんばらしい住宅供給システムが存在するというわけだぁ。 

 それにくらべて日本なんかたったの20~30年で資産価値を失うというシステムをいつまで続けんのかねぇ〜(怒)
 国民が本当に豊かになれるのはまず、人生最大の買い物である「家」の資産価値があがり続けること、そして家庭内収入の3倍以内にローン総額を抑え、住宅にかかる支出(返済、光熱費、修繕費、固定資産税など)を年あたり家庭内収入の25%以内にして、余剰を教育、余暇、貯蓄にあて、万が一の災害や災難、不測の事態に備えるというアメリカ並のシステムを少しでも学んで実践することじゃないかな?

 我欲ばかりに走っちゃいかんよ〜っ!エラい人たちぃー!
いっそのこと、カルロスゴーンさんが日産を立て直したように、日本の経営を海外の出来る人に頼んじまったらいいんじゃないのー?どーせ今の政府じゃできねーんだから・・・諦

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 この映画で最も印象深かったのは、街のギャング?達が前庭に入ってきたところで「Get off my lawn!」(わしの芝生から出ていけっ!)だった。
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 そもそもアメリカの家の多くはきれいに刈り込んだ芝の前庭(Front Yard、Lawn)があるけど、なんでなんだろね?って疑問を抱いた事ない?
 アレにもやっぱしワケがあるんだよぉ〜〜〜。知りたい?  長いよ??

 第二次世界大戦終戦後の1947年、生還した若者が結婚しはじめて住宅不足が問題となり、若い夫婦向けに明るい未来を期待出来るような一戸建てが必要だろうということで、復員軍人緊急住宅計画がニューヨーク郊外ロングアイランドで進められたんだ。
その時に活躍したのはウィリアム・レヴィットさん。
 
 戦時中には陸戦地に物資を運んだりするため、道なき場所に2x8フィートの鉄板を敷いて陸路を確保していったそうな。しかし、戦争が進むに連れ鉄が不足した。そこでの対応策としてアメリカ大陸に豊富で丈夫な杉材を同じ寸法にカットして使ったんだって。アメリカに勝利をもたらしたのはこの2x8フィートの杉材だったという人までいるんだって。
 しかーしっ!戦争は終わって大量に余ってしまった。
 
 そこに機転を利かしたのがレヴィットさんだった。「オレはこの板を使って住宅のゼネラルモータースになる!」と言ったか否かはさだかではないけど、現在2x4工法に使われている構造用合板の2x8フィートというモジュールが生まれた!んだそうだ。

 そんで話しを芝に戻しぃ、レヴィットタウンと名付けられたその住宅地の前庭に芝生を植えた。「あなたのゲストが最初に目にするのはあなたの前庭だよ。第一印象が最も重要!」というセールストークがあったとかなかっとか!?
 ともかくその後のベビーブームと相まって前庭の芝生はアメリカン・ドリームの象徴的存在となったんだ。 
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 主人公ウォルトも元は軍人。(映画を観れば一目瞭然です)
 その世代が「芝」を大切にする意味がわかる気がするよね。
 そしてそれは 、世代を超えて受け継がれているんだ!!なんとすばらいい!

 今回は複雑なクラフツマン様式と「芝」のお話しでおしまい!! 
 


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